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第6回 羽毛田丈史

PROFILE

羽毛田丈史羽毛田丈史

羽毛田丈史(はけたたけふみ)プロフィール

1960年、長野県生まれ。81年にデビューしたのち、アレンジャー・作曲家として活躍。ドラマや劇場映画の音楽を担当するほか、さまざまなジャンルで活躍を続けている。

取材・文/宮昌太朗

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――原作をお読みになったときの印象って、覚えてらっしゃいますか?

羽毛田: 最初の打ち合わせをする前に、原作をまとめて送ってもらったんですよ。マンガは、わりと普段からよく読む方なんですけど、こういう感じの作品を読むことはほとんどなくて――「少女マンガだなあ」と思ってたら、だんだんと「あれ?」って(笑)。かわいらしい女の子が出てくる物語だなって思いながら読んでたら「もしかしたら......そういうこと?」っていう。

――まさか、女の子同士の恋愛がテーマだとは知らずに(笑)。

羽毛田: ただ面白い空気感だなあ、っていうのはありましたね。普通はだんだん物語が展開していったり、事件が起きそうなもんですけど、何も起こらない。その空気感は面白いなあ、と。で、そのときに思ったのは「でもこれって、いったい誰が読んでるんだろう?」(笑)。「じゃあ、僕はいったいどういう曲を作ればいいんだろう?」と。普通は、原作を読めばだいたいどういう人たちに人気があるんだろうとか、わかるんですよ。どんな人たちが、どういう気持ちでこの作品を読んで、感情移入しているのか。だから第一印象は、頭のなかに「?」マークがいっぱい浮かんでる状態(笑)。読み終わってすぐにマネージャーに電話したんですよ、「これ、俺でいいの?」って(笑)。

――その後の打ち合わせも、ちょっと通常とは違ってたそうですね。

羽毛田: そうですね。普通はまず、主人公のテーマがあって、物語のなかで起きる出来事に応じて必要な曲を――例えば、悲しい事件が起きるんなら、そういう曲が必要だし、逆に合格するとか優勝するとか、そういうセレモニー的なものに向けた曲を用意したりとか。

――つまり、劇中で起こるシチュエーションに応じて、あらかじめいくつもの曲を書いていくわけですね。

羽毛田: ええ、テレビアニメの場合はそうですね。でも『青い花』の場合はずーっと、あーちゃんとふみちゃんがやりとりをしてるだけっていう(笑)。恋が成就するわけでもないし、逆に恋に破れたからといって、大事件になるわけでもない。実を言えば、劇中で起こる小さな事件に、いちいち音楽を当てるのは「違う」と思ってたんですよ。それをやっちゃうときっと、原作とはかけ離れたアニメになってしまう。

――それは打ち合わせの前に?

羽毛田: はい。そうしたら打ち合わせの席で監督が、扱ってる題材はちょっと「禁断の恋」みたいなものなんだけど、それを前面に押し出したくないんだ、と。あと、原作に忠実な雰囲気を出したい、っていう話をされて「あ、なるほど」と。

――すぐにピンと来た(笑)。

羽毛田: 「わかりました」と。以上、打ち合わせ終了、みたいな感じで。そのときに音楽メニュー(※制作サイドから音楽家に渡される、発注用の一覧表)をもらったんですけど、「日常1、日常2、日常3、日常4......」みたいなメニューで(笑)。

――あはは(笑)。日常のバリエーションが欲しかったわけですね。

羽毛田: そうですね。あと、ちょっと感情を表わすような楽曲がいくつかあったんですけど。だからまず僕のなかで、その「日常1」っていう曲をこの番組のテーマと位置づけて、そこから着手したんです。

――第1話のあきらのセリフ、「ふみちゃんはすぐ泣くんだから」のところでかかってる曲。

羽毛田: はい。で、そのメロディの断片を使って、少し小さな編成の曲を作ったり、テンポを変えたりして、バリエーションを作って。それでちょっとした感情とか、色の変化みたいなものが表現できないかな、と。

――ひとつのテーマを変奏していく、みたいな。録音のときにハプニングとかはなかったんでしょうか?

羽毛田: すごくすんなり、いい感じで録音できましたね。ただ今回、ほとんどシンセを使ってないんです。シンセを使わずにいつもより生楽器が多かったので、大変は大変でした。生楽器って、順番に録音していくんで、基本的に時間がかかるんですよ。しかも今回は、ピアノだけで15、6曲あったりして、弾いても弾いても終わらない(笑)。「えっ、まだあるの!?」みたいな感じで。

――あはは、意外な苦労が(笑)。

羽毛田: 例えば普通は、フルートとピアノという編成の曲があったら、その1曲あればいいんです。全部で30曲あったとしたら、これは「フルートとピアノ」っていう曲。でも、今回はフルートとピアノの編成だけで5曲用意して、その5曲のなかでメロディだったり、アレンジを変えてる。そのことで、微妙な色合いの変化みたいなものが表現できると、カッコいいよなって思ったんです。

――なるほど、それは凄いですね。

羽毛田: しかもそうなると、演奏家の力量みたいなものが必要になる。例えば、同じ曲でもテイクが違うと、演奏の仕方で、ちょっとした感情の起伏みたいなものが違ってきちゃう。普通だったら「OK」になるところでも「もう1回」って話になるわけです。だから時間がかかる(笑)。

――実際に、完成した作品をご覧になっていかがでしたか?

羽毛田: 最初に監督がおっしゃっていたイメージ通りになっていて、それは本当に「凄い」と思いました。オンエアを見たら「打ち合わせではああ言ってたけど、やっぱりこういう風になっちゃったのかあ......」みたいなことは、たまにあるんですよ。

――そういうズレみたいなものが、『青い花』ではなかった?

羽毛田: ものすごく大事に曲を使ってくださってるのが、画面を見てて伝わってくるんですよ。だから逆に「もっと精度を上げて録音したかったな」って、欲が出てきちゃったくらいで(笑)。音楽って、そこが一番難しくて、打ち合わせの席でどれだけ口で説明しても、結局のところ、音になって出てきたときに、相手がどう感じるかはその人次第なんですよ。だから、そのとき監督だったり、音響監督の明田川さんが、どんな作品をイメージしてるのか――それを察知する。想像している映像のなかで、こういう曲がハマってくれるといいな、と思ってるものを、明確な形で「ポン」と出してあげる。それが重要なわけで。

――それが今回は上手く行った、というわけなんですね。

羽毛田: 完成した作品を見て、音楽がどうだったとか、そんなことはわからなくていい。背景に溶け込んでてくれる方が、僕はいいんです。だから『青い花』という作品全体から、ある繊細さみたいなものを、受け止めて楽しんでもらえると、すごく嬉しいですね。

2009.9.04 UP

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© 2009 志村貴子・太田出版/青い花製作委員会